[短歌]君の住む街へ伝染するように言葉に添える色があります

夜中に書く手紙は情熱的になりすぎて危険ですが、えいやっと投函してしまうくらいには一生懸命だったのです。大人になって、落ち着いて、温度は調節するようにはなりましたが、(伝われ、伝われ、響け、響け)と思う気持ちは昔も今も、なのです。

君の住む街へ伝染するように言葉に添える色があります


[短歌]まっすぐをやめたら楽になるでしょう破れ教科書汚せ足跡

法律、道徳、倫理、モラル、常識、教科書、正義。カチコチに縛られて息が苦しくなりそうなとき、ふと、この世界を破ったらどうなるのだろうと考えることがあります。破ってでも痕跡を残したい出逢い。その衝動は、ルールが決めるのではなく、心がおこすのです。

まっすぐをやめたら楽になるでしょう破れ教科書汚せ足跡


[短歌]定番のデートコースで決めたこと僕は光になれなかったね

ひとつひとつは、とてもくだらないお話。でも、そんなくだらなさを積み上げて、未来をつくっていくつもりだったのです。振り返って「あの日はこんなことをしたよね」と言い合える時間は、きっと眩しくて素敵ですね。きっと眩しくて素敵だったでしょうね。

定番のデートコースで決めたこと僕は光になれなかったね


[短歌]見えなくていいのに見えてしまうから雨よ煙れよ闇になるまで

意図せずいろんなものの見えてしまうキリンは、ときに楽しく、ときに悲しくなってしまうのではないでしょうか。たとえば、もう、知らない誰かと笑う街の景色に、深い雨を願うことがあったのだとしても、それはキリンを傷付けないために必要なことだと僕は考えてしまうのです。

見えなくていいのに見えてしまうから雨よ煙れよ闇になるまで


[俳句]色もなく散る秋冷の白きかな

白鷺城を見上げて、色づく前に散ってしまった葉の気持ちはどんなものなのでしょうか。ところで姫路城は、僕にとって、とある物語の始まりと終わりの場所でもあります。秋の深まる前に散った葉に、僕はそんな昔を重ねてしまったのでありました。

色もなく散る秋冷の白きかな


[短歌]もう終わることに気付いているけれど「また明日」って君に言うんだ

終わりが近付いたころの乾いた笑い方。「面白くない?」「笑ってよ」と言ったところで叶うわけもなく、変わるわけもなく、溝になるばかりで、のみこんで、もっと馬鹿なことを言って笑わせようとするのですが、僕はみじめになるばかりでした。「また明日」の声だけが、むなしくさみしく響いていたこと。それはもう、最後のカーブを曲がったころのお話です。

もう終わることに気付いているけれど「また明日」って君に言うんだ


[短歌]雨がよく降ったのでしょう君のゆく道が光で反射している

たくさん苦しませて、泣かせましたね。涙で濡れた道から新しい場所へ。もうそこには、たくさんの光が射していて、君のこれからを占うように満ちているのです。

雨がよく降ったのでしょう君のゆく道が光で反射している


[短歌]見上げればひとつの屋根があるというたとえばそんな夢を見ていた

雨ばかりでため息ばかり、そうしてひとつの屋根の下。ぽこぽこと珈琲、しゃららんと音楽。好きな本のページを繰りながら午後を過ぎていく。きっとそういうことを幸せと呼ぶのだと思っていました。夢はもう遠くの雨の下で。

見上げればひとつの屋根があるというたとえばそんな夢を見ていた


[短歌]ねぇ何を見てるの?何を食べてるの?きみの世界にぼくはいますか?

さて、いまは、どこで、だれと、なにを、どんなふうに、ぼくは、どこに、と、お出かけ日和の太陽を恨めしく思ってしまうことがあります。だからでしょうか、視界を曇らせる雨の日に飲む珈琲に、僕はひとときの安堵をするのです。

ねぇ何を見てるの?何を食べてるの?きみの世界にぼくはいますか?


[短歌]声援の染み込んでいる芝生にも静かに祈る人がいました

ここに立つすべての人が主役になれますように、と、光のあたらない場所で、静かに丁寧に祈る人たちがいます。僕たちの歴史と、僕たちの立つ場所は、誰かによって支えられてきたものだという、この、確かな礎に、忘れてはいけないことがありますね。

声援の染み込んでいる芝生にも静かに祈る人がいました


[俳句]挙手をしても一人

咳をしても一人、挙手をしても一人。世界は広いのでも狭いのでもなく、空間を埋めてくれる何か誰かの存在によって、表情を変えていくのです。咳をしても一人、挙手をしても一人。いつかまでの一人、いつかの一人。

挙手をしても一人


[短歌]モノクロの僕を終えたら車窓にはどんな光が射したのでしょう

僕と過ごした終わりのころの時間がモノクロだったとして、その後、どんな光を覗いたのだろうと考えてしまうことがあります。光のなかで時々は、思い出してくれることはあったでしょうか。

モノクロの僕を終えたら車窓にはどんな光が射したのでしょう


[短歌]好きな本、好きな木の下、好きな歌、好きな青空、好きだった人

いまもむかしも変わらない、好きなこと。あえて過去形なんかにしてみせて。

好きな本、好きな木の下、好きな歌、好きな青空、好きだった人


[短歌]置いていきなよ まっすぐにゆく君の荷物はぜんぶ引き受けるから

出立を決めた眼差しは、どうしてこんなにも清らかで遠いのでありましょうか。もう過去になってゆく荷物たちは、どうぞここへ置いて、わたしにはわたしの、あなたにはあなたの道があります。まっすぐを曲げずに、どうか曲げずに幸せに。

置いていきなよ まっすぐにゆく君の荷物はぜんぶ引き受けるから


[短歌]似た人がいます、重ねてみたりして。もう何年さ、いい大人だよ?

街は罪作りに僕を昔へ誘おうとします。これはあの日と同じ風だな、匂いだな。そして向こうに見えるシルエット。昨日の続きのような手がかりたちが、すこしだけ楽しく、とても苦しく、渦になった記憶に迫ってきます。

似た人がいます、重ねてみたりして。もう何年さ、いい大人だよ?


[短歌]約束の残がいたちが散る空は緋色にはもう広すぎました

約束の欠片たちを探して触れていこうとすると、多すぎて、粉々になりすぎて、ひとつひとつを追いかけて想いを馳せるにはあまりに空が広すぎたのでした。もう寄せて集めることも叶わない幾多の約束。人生を過ぎて、言葉にしたときの覚悟を思い出すことがあります。

約束の残がいたちが散る空は緋色にはもう広すぎました


[短歌]流されてみるのにもいる勇気とか ごめん弱くてごめん足踏み

選べなくて、では流されてみようと思って。でも結局、流され始めるその瞬間にも、やっぱり乗るという勇気が必要で。そんな優柔不断をいつまでも待ってくれているはずもなくて、だからあの時を思い出すたび、何度も声に出して謝りたい気持ちになってしまう。

流されてみるのにもいる勇気とか ごめん弱くてごめん足踏み


[短歌]白線の内側で聞く雨の音どうして乗らなかったのだろう

危険を承知で乗り込めば、もしかするとあの温もりに包まれたのかもしれない。選ばないのも自由、選ぶのも自由。でも僕たちは知っている。選ばなければ、心の奥にずっと霞が残ってしまうということを。

白線の内側で聞く雨の音どうして乗らなかったのだろう


[短歌]勲章が欲しくて急いだとしてもひとりぼっちの色は寒いね

色を急ぐと季節の先頭に立つことができる。色を急ぎ過ぎると孤独の先頭に立たなければならない。なんのために急ぐのか、急ぐとどうなるのか。そう、急ぎ始めた理由を、僕たちはすぐに忘れてしまうから困る。

勲章が欲しくて急いだとしてもひとりぼっちの色は寒いね


[短歌]窮屈な空をあきらめない君はやがて光に触れるのでしょう

諦めない方向にあるのが空で、諦めない瞳に宿るのがチカラなのでしょう。光の場所は心が決めるということを、伸びていく、君の右手に左手に教えられたような気がしました。

窮屈な空をあきらめない君はやがて光に触れるのでしょう