[俳句]命日の風に抱かれし草若葉

三十歳の頃と比べれば、四十歳の自分もすこしは成長したのかもしれない。分からないくらいの、ほんの成長なのかもしれないけれど。誰に認められるよりも、いちばんに認めてほしい人がいる。いちばんに認めてほしい人は、もう、遠くへと行ってしまった。あれからの静寂。会いたいし、褒めてほしいし、頑張っているな、と言ってほしい。これからもずっと、遠いまんまなんだな。

命日の風に抱かれし草若葉


[短歌]輪郭を求めすぎたら疲れるねただ頷いてほしい夜とか

何も教えてほしくはなくて、ただ共感だけをしていてほしい。と、繰り返し心の中に念じながら、アドバイスに耳を傾けている。ため息をして最後に思う。頷いてくれること、その意味と温もりと。

輪郭を求めすぎたら疲れるねただ頷いてほしい夜とか


[短歌]夕暮れの景色になってしまおうか比べることはお休みにして

個の色は大切にしたいなぁと思う。ただ、色を出そうとして無理を強いるのは違うとも思う。ひとつひとつがみんなを構成している。そんな、大きなひとつ。それも生き方のひとつで、優しい景色なのではないだろうか。

夕暮れの景色になってしまおうか比べることはお休みにして


[短歌]影ばかり探そうとする僕でした雲を集めて雨を降らせて

前向きやポジティブという色から遠いところにいれば、それに気付いた優しい言葉がやってくるのではないかと考えていた時期もあった。最初はとても効果的だったその方法も、次第に、大切な人の未来を妨げる荷物へとなっていく。弱さはいっときのカンフル剤。永遠を繋ぐ手段にはなりえないことを知った。

影ばかり探そうとする僕でした雲を集めて雨を降らせて


[短歌]僕たちと呼びあえた日のそれからは右へ左へバカばかりして

回り道、遠回り、ルールから外れて、僕たちのルールを作りあうことが幸せだった。バカをしたなぁと思うし、バカをしたいなぁとも思う。「最近の若い人は」という言葉は羨んで使うものだということを、僕もこの年齢になって気付き始めたな。

僕たちと呼びあえた日のそれからは右へ左へバカばかりして


[短歌]運命と言えば重くて軽くなるひととき君と過ごした記憶

運命という言葉を、誰も、人生のどこかで使ったことがあるだろう。過ぎてそれは、笑い話になってしまうことがほとんどなのだけれど。記憶は綺麗なまま、眩しいままで、何十年経っても残るのだなぁと思う。

運命と言えば重くて軽くなるひととき君と過ごした記憶


[短歌]海になる覚悟を聞いてくれますか永い歴史を始めませんか

永遠の覚悟を文字にする、20歳のそれと40歳のそれとでは、いろんなことが見えてきた分、いろんな意味が伴って異なる。「守りたい」とか「強くありたい」とか。青い想いを言葉にして動こうとするのは、昔も今も変わらないけれど。

海になる覚悟を聞いてくれますか永い歴史を始めませんか


[俳句]踏み跡をたどりはしない雪の果て

「雪の果」という季語には別に「名残の雪、別れ雪、忘れ雪」などの呼び方もあるらしい。雪の終わりは春に繋がれていく。春に終わった色々を思い出さないことはないけれど、もう、辿ってはいけないのだと思う、その踏み跡と文の後。

踏み跡をたどりはしない雪の果て


[短歌]曲げないと生きていけないことがある帰ってきたら泣いていいから

芯を曲げることはとても辛いだろうけれど、「柔軟」や「臨機応変」という言葉に甘えてみてもいい。それは生きていくための手段。それは笑っていくための方法。大丈夫、泣いてもいい、昔の顔のままで、大丈夫。

曲げないと生きていけないことがある帰ってきたら泣いていいから


[短歌]夕焼けが帰りなさいと言うようなとても優しいお別れでした

その後を願い合って背中を向けた手のひら。「あれから、幾つかの涙をこぼして、そうして今日はこんなに元気にしています」と、いつか伝えることはあるんだろうか、なんて、西の空に感化されるのは、僕のなかの永遠の青さ。

夕焼けが帰りなさいと言うようなとても優しいお別れでした


[俳句]優劣は知らず月夜の梅の花

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争いを忘れた花の優雅に、僕たちはしばらくを見惚れる。競うという言葉の意味も知らず梅は月を見上げて。美しさのそばで、僕たちはどうして優劣を決めたがるのかを考える。

優劣は知らず月夜の梅の花


[短歌]「あれから」の文字が重なる一日を永遠として春よ急ぐな

3.11の涙を急いで乾かす必要はないと思ってる、3.11に限ったことではないけれど。季節の巡るたび甦ってくる死別や離別の痛み。あの日が冬だったのなら、置き去りにしてしまうような春は、まだ、来なくていい。

「あれから」の文字が重なる一日を永遠として春よ急ぐな


[短歌]在るようで無くて近くて遠いものたとえば羽根の浮かぶ夕暮れ

夜に消えてしまうまでのほんの一瞬に奇跡と出逢った。空を見上げたか、カメラを持っていたか。タイミングは空に与えられても、そのための意識や準備をしておくのは自分の心構えだ。60秒の深呼吸。無性にありがとうが言いたくなる。

在るようで無くて近くて遠いものたとえば羽根の浮かぶ夕暮れ


[短歌]壊れては涙を添えてばかりいる掴めなかった羽根の行方に

ぐにゃりとしたり、ぐしゃりとしたり、僕の来たこれまでには、いくつもの挫折があって、永遠の冷たい風を送り続けてくる。だから詩を書けるのかもしれないし、だから詩に逃げるのかもしれない。羽根をこぼしてしまったことを、否定はしない。その事実が、いまの僕を形成している。

壊れては涙を添えてばかりいる掴めなかった羽根の行方に


[短歌]お眼鏡に適わなかった原石が今でも雨を見上げてしまう

あの日あの時あの瞬間、どうしていれば運命を変えられたのだろうと思うことがある。それはもう、過去の一点であって、そんなことを考えてばかりいるから、原石はいつまでも磨かれないのかもしれない。「石ころ」とは書かない、安い安いプライド。

お眼鏡に適わなかった原石が今でも雨を見上げてしまう


[川柳]迷路だと思うよ生きているかぎり

悟ったように語る君の近道は、結局やっぱり壁にぶち当たるのであって、僕たちは迷路という王道に生きているのだと考えてたい。右往左往、強がりよりも弱さを放つ。「助けて」と声に出せた人から、すこしだけ、温かい迷路に向かっていくことができる。

迷路だと思うよ生きているかぎり
ふあうすと2017年3月号「明鏡府」掲載


[川柳]忘れ方ばかり忘れてしまうんだ

「忘れたいことを忘れられる薬」とか「大切な人の心臓の鼓動が止まったら、自分の心臓も同じ瞬間に止まる薬」だとか。もしかしたら、とっくにもう、完成しているのかもしれないけれど、引き換えに、悲しみの意味を人が忘れてしまっては困るから公表しないんだ。なんて、どこかの谷にある村で言い伝えられていそうだなって。

忘れ方ばかり忘れてしまうんだ
ふあうすと2017年3月号「明鏡府」掲載


[川柳]始発まで頷いていてくれるかい?

「わかるよ」のひと言だけで救われる夜もある。この愚痴や相談に必要なのは答えなのか共感なのか。察してくれる人の温度にもたれて、僕の弱さに肯定をもらった。

始発まで頷いていてくれるかい?
ふあうすと2017年3月号「明鏡府」掲載


[川柳]正しくて優しくてほら嘘をつく

何が正しいのかを僕は知らないし、本当に優しいのかどうかも分からない。ただ、そうなんじゃないかな、と思う器の大きな人たちは皆、自分の正義や性格を決して主張はしてこないし、上手に嘘をついて、僕を前へ立てようとしてくれる。頭が良くて優しい人たちのする先回りに、僕はしばらく経ってから、ようやく気が付くのだった。

正しくて優しくてほら嘘をつく
ふあうすと2017年3月号「明鏡府」掲載


[短歌]微粒子になってしまった日々があり指が和音を思い出さない

「忘れていない」はずのことも、断片となり、微粒子となって宙を彷徨う。もう、拾い集めることもできないくらい粉々になってしまった日々のことは、確かに存在したのに、見えなくて、共鳴をしない。色も音も匂いも、今の僕を構成しているはずなのに、もう。

微粒子になってしまった日々があり指が和音を思い出さない