[短歌]似てほしくないけど似てもいてほしいこんな自分で良ければですが

同じ食べ物を好きになったり、その間だけで通じる言葉が増えていったり。「似る」とか「近づく」とか「重なる」という言葉の先は、じんわり、僕たちを幸せな感じにしてくれる。

似てほしくないけど似てもいてほしいこんな自分で良ければですが


[短歌]十六の頃の血潮が滾るよう変わらないこと変わりたいこと

16歳のころの青さは、道を選ぶのではなく、道を作ろうとしていた。そんな風な気持ちを滾らせて、2016年に決めたことをカタチにしていきたいと思っている。決意は変えず、行動は変えて。約束に押されて進む先にあるものを、分け合って笑っていく。

十六の頃の血潮が滾るよう変わらないこと変わりたいこと


[短歌]ゆく川の流れは絶えずして声に出さないように過ぎた名前を

一枚になったカレンダーを急いで捲らせるような冬の空は、むかしの扉に僕を運ばせがちだ。もう、どうってことのない過去でも、下手にいじらず化膿させないべきだろう。今とこれからを埋めていく、冷えた空気に決めること。

ゆく川の流れは絶えずして声に出さないように過ぎた名前を


[短歌]正しいという迷信や科学では伝えられない空を待とうか

「正しい」や「間違っている」という断定が誰かを傷つけてしまう可能性があって、僕たちは言葉を選び合って生きている。いろんなことが難しくて面倒で、ただただ、最高の空を待ちあえる同士になれたら一番だね。

正しいという迷信や科学では伝えられない空を待とうか


[短歌]形ではないものだって欲しかったたとえば時間たとえば温度

与えたから与えられたのだと思うのではなく、必要とされて海月のように身を委ねてゆく。目には見えないものを重ねたがる僕は永遠の少年なのだけれど、案外、きみも彼も、同じ風なのではないかと思ったりする。

形ではないものだって欲しかったたとえば時間たとえば温度


[短歌]僕たちの終わりは僕の死ぬ日だと甘い台詞の夜をいくつも

言葉は道具に過ぎないけれど、道具を渡って心は伝わりあっていく。大胆な言葉を揶揄する人がいても、まっすぐに受け入れあっていけばそれでいいんじゃないかな。ほんの小さな歴史のひとときを、互いの歴史のすべてにしていく。始まりにはいつも言葉がある。

僕たちの終わりは僕の死ぬ日だと甘い台詞の夜をいくつも


[短歌]星の降るよう鈴の鳴るようきっと約束好きな彼はトナカイ

約束が好き。言葉にしたのだから、それを何があっても実現しようとする強い意志が働いている状態はもっと好き。そこへ向かっていくという感覚が良い。だから僕は、社交辞令は言わないことにしている。言葉にしたものはいつだって本気の約束だ。トナカイほど、夢のあるものでなかったとしても。

星の降るよう鈴の鳴るようきっと約束好きな彼はトナカイ


[短歌]あっちよりこっちに決めてくれたから1+1が100になります

あっちじゃない理由は損得でもいい、こっちである理由は損得じゃない方がいい。利害を超越した感情の領域で強くなることを約束する。初心忘れるべからず、だ。

あっちよりこっちに決めてくれたから1+1が100になります


[短歌]飛ぶ鳥の行方に星はありますか君に逢う日は雨が多くて

代表曲のひとつが雨を歌ったこの曲だ。星の下ばかりが再会の場所とも限らないし、信じたい気持ちでいつまでも再開を待つことにする。とことん、とことん、僕の軸なんだろう。

飛ぶ鳥の行方に星はありますか君に逢う日は雨が多くて


[短歌]今日と似た明日をくれる神様がいれば永遠だった二人は

布団にもぐる前は元気だったはずが、朝起きてみると体調を崩しているということがある。朝と夜の線のあたりには、いたずらに攻撃を仕掛けてくる思惑たちが潜んでいる。昨日までは永遠を誓い合っていたはずのふたりも、どこかの線に運命をやられてしまったね。

今日と似た明日をくれる神様がいれば永遠だった二人は


[短歌]幸せについて議論をしたとするたとえば君のいない季節を

父と二人乗りをした、犬たちと散歩をした、明石公園は、今もほとんど変化をしていないのに、僕だけが大人になって、今はもう、皆に逢うことは叶わない。幸せっていうのはつまり、目の前の存在を、とことんまで大切にするってことなんだ。

幸せについて議論をしたとするたとえば君のいない季節を


[短歌]カタチにはならないほんの約束を重ねてゆけば 小指と小指

母はマカロニグラタンをいくつも作って、冷凍庫にしまっておいてくれた。ドアの向こうに楽しみがあるという約束は、少年だった僕の心を豊かなものにした。以来、僕は、買い置きに安堵を覚え、約束に心を弾ませるようになったんだ。

カタチにはならないほんの約束を重ねてゆけば 小指と小指


[短歌]過去形の知らない人に嫉妬する今年の紅を永遠にせよ

必要のないときに発動する想像力によって、過去形の知らない誰かが僕を責めてくる。知らない昔々よりも、いま、この色を刻むようにして上書きしてしまいたいと思う気持ちを、何と呼べばいい?

過去形の知らない人に嫉妬する今年の紅を永遠にせよ


[短歌]もう削除したのに風は悪戯に耳打ちをして触れる続編

知りたくないことに限って運んできたがる風のいくつか。もう、続編はいいのに、ひとり、たらればを付け足して妄想へ吸い込まれていきそうになる。消したはずのそれは、ただ、見えないようにしていただけだということを知る。

もう削除したのに風は悪戯に耳打ちをして触れる続編


[短歌]いくつ手を借りたのだろう僕はまだはるかな夢に背伸びしている

「挫折は財産だ」と語ってみせるのは、夢の半ば、僕の挑戦をまだ許していてほしいからだ。助けられて生きて、恩をまだ返せないままのこれまでの道のり。

いくつ手を借りたのだろう僕はまだはるかな夢に背伸びしている


[短歌]強さとか優しさとかを間違って風であなたを苦しめました

綻びのある心の底を覗かれたくはなくて、それっぽい優しさを連ねてみる。結果、僕は甘えて委ねてばかりで、矢面の風を浴びせ続けてしまったらしい。今なら僕の足らずを理解できるが、今でもきっと、同じ足らずをぶつけてしまいそうな気もする。

強さとか優しさとかを間違って風であなたを苦しめました


[短歌]引力があれば和音になれたのに欠けたまんまをずっと生きてる

「うどんかそばか、どっち?」ではなく「うどんが食べたい」という力強さで引っ張っていけたら、今ごろは和音になっていたのかもしれない。優柔不断という弱さを優しさに見せかけたところで、三日月は満月に笑われるのだ。

引力があれば和音になれたのに欠けたまんまをずっと生きてる


[川柳]言葉だけ きれいな言葉だけでした

伝えてあげられたのは、言葉だけだった。パンにも、毛布にもならない、ただ、耳に触れただけの言葉のいくつかは、残響となって、埋まらない僕の箱のなかを永遠に往く。振り子のように僕を打つ響き、今なら、どんなことをしてあげられるのだろうと想う。

連作川柳 [1][2][3][4]
言葉だけ きれいな言葉だけでした
ふあうすと2016年12月号「明鏡府」掲載


[川柳]「おかげ」って言うたび僕が薄くなる

やがて雨の向こうに君は虹を見つけた。「おかげで」と笑って言うたび、微力にさえなれなかった自分が小さく、薄くなってゆく。強さの意味を考え、強さとはずっと遠いところで、僕はその声を聞く。

連作川柳 [1][2][3][4]
「おかげ」って言うたび僕が薄くなる
ふあうすと2016年12月号「明鏡府」掲載


[川柳]無力だと思う 微力はどこにある

(そんなわけはない)と強く思ったところで、僕には何もできない。チカラの源を探して、教科書を求める。それで何かを補えるわけでも、足してあげられるわけでもない。いくつかの選択肢を示して、それなりの役割を果たしたような顔をして佇むだけだ。この腕は空(くう)を掴むだけの無力。

連作川柳 [1][2][3][4]
無力だと思う 微力はどこにある
ふあうすと2016年12月号「明鏡府」掲載