月別アーカイブ: 2016年10月

[短歌]闇はまた光を連れてくるでしょうひとときいまは僕の番です

誰かの闇や傷を肴にすることが、その闇をもっと深いものにするのだと、どうして気が付かないのだろう。ナイフとなった言葉を封じ込めたい衝動にかられつつ、光のガイドになって支えることを選ぼうと思った。

闇はまた光を連れてくるでしょうひとときいまは僕の番です


[短歌]順番はやがて来るからうつむいてこぼしていいよほどけ靴ひも

いいと思う、うつむいて、休んで。大切なのは、いつ何処でこぼすのかということ。今がそうで、ここがそう。何度だって繰り返してやりたいと思った。今がそうで、ここがそうなんだ。

順番はやがて来るからうつむいてこぼしていいよほどけ靴ひも


[短歌]伝えたくなる空ですが伝えてはいけない距離で祈っています

見上げるのが好きだったことを覚えていて、思わず伝えたくなるような瞬間がある。許されることではなく、伝える術ももう、ないのだけれど。だからなんとなく、足を止めて、いまと、ずっと未来の温度のことを、ほんのすこしだけ、祈ってみたりする。

伝えたくなる空ですが伝えてはいけない距離で祈っています


[短歌]遠い日の遠い人にはもう何も求めはしない夜が長いね

秋は月に照らされて遠い日に出かける。色や音や香りは相当に美化されているのだろうが、ひととき、僕は僕の創り出した世界に身を置いて深呼吸をする。何も求めないから、自由を創造できる。

遠い日の遠い人にはもう何も求めはしない夜が長いね


[川柳]約束を含んだ語尾を待つ巨人

言葉のなかに約束があると安堵する。そうか、未来を描いてくれたのか。そうか、また会えるのか。自分に自信を持てない僕は、ひとの時間を借りようと自分から誘うことが苦手だ。大きく生きているように見せて、小心者。だから嬉しくなる語尾がある。

約束を含んだ語尾を待つ巨人
ふあうすと2016年11月号「明鏡府」掲載


[短歌]細胞の何処かの薄い足跡を波は優しく削るイジワル

細胞のひとつひとつには、螺旋の記憶があって、今の僕を構成している。鮮やかなままに言葉を紡ぎ出すこともあれば、褪せて沖の方に流れ出てしまったパーツもあって、時の流れは残酷だ。忘れられないから苦しいことも、忘れられるから生きていけることも。

細胞の何処かの薄い足跡を波は優しく削るイジワル


[川柳]奪われてなるものかってひがんでた

選ばれ続けることだけを考えていればいいのに、蹴落して自分の立場を守ろうとする。それでも果たされなければ、すねてひがんで「行かないよ」の言葉をかけてもらおうとする。弱くて弱くて弱くて、そんな小ささと対比してしまうくらいの大きさと眩しさ。

奪われてなるものかってひがんでた
ふあうすと2016年11月号「明鏡府」掲載


[短歌]街中で出会わぬように生きている近くて遠い旅をしている

昔を訪れる妄想ばかりしているくせに、街中を歩くときは視界をぼやかしてみる。止まったままの時間と流れていく時間とが交錯しあって、いまという瞬間。僕はずっとこの街で旅をしているのだと思う。それはとても、近くて遠い。

街中で出会わぬように生きている近くて遠い旅をしている


[短歌]光にも水にもなれませんでした答えはきっとあったのでしょう

できることはきっとあったのでしょうが、僕はそれを、いつか与えられるものだと信じていて、これっぽっちも見つけに行こうとはしませんでした。いまは遠いどこかで、どんな風にして花を咲かせているのでしょうか。弱かった日々を、それでも優しく、感謝しています。

光にも水にもなれませんでした答えはきっとあったのでしょう


[短歌]「実を結ぶまで待っていてくれ」なんて言えないままの下手な口笛

「いつか叶うもの」と、いつまでも走りだせないままでいたところで、それは単なる口ぐせになってしまう。曖昧な語尾、先送り。魔法が解けることを怖がったシンデレラは、こんな心境だったのだろうか。

「実を結ぶまで待っていてくれ」なんて言えないままの下手な口笛


[短歌]公式を探してばかりいたくせに雲には乗れなかった ひとひら

憧れに届きたくて、ずっと教則本を探していたような気がする。当たって砕ける勇気からは遠すぎて、結局いつも、秋の絵の具たちに支配されるころ、足らずばかりだった自分に疑問符をぶつけて過ごしてしまう。

公式を探してばかりいたくせに雲には乗れなかった ひとひら


[短歌]燃えた日を折り畳んだり仕舞ったり忘れた顔が上手くなったり

誰も懐かしい日々を、何事もなかったように引き出しにしまって生き合っているいる大人たち。「お世話になっております」「よろしくお伝えください」「その節はどうも」。今日はどんなマニュアルで街へ臨むのか。誰もいつも、昔の顔を仮面に包んで。

燃えた日を折り畳んだり仕舞ったり忘れた顔が上手くなったり


[短歌]着地点まで添っていく靴ひもに色をください声をください

「色のある言葉をもらえると嬉しいのは、言葉で生きていきたいと思う道にあるからで、安っぽくならない程度の、僕が嬉しくなるものたちをください」と、遠回しに伝えようとする。詩を書く人間は面倒です。それでもいいですか?

着地点まで添っていく靴ひもに色をください声をください


[短歌]祈るだけなら簡単なことでした光の道を生きていますか

地元の人でもほとんど知らないような森の中に、小さな神社がある。神秘的な光、特別に出逢えると幸せな気持ちになる。こんな風に満たしてあげられなかった頃を、光の源泉を見上げながらしばらく。

祈るだけなら簡単なことでした光の道を生きていますか


[短歌]特別な傷の痛みを分け合って「今日は…こんなに元気です」から

自分も含めて、震災を経験した者同士の分かり合える、分け与えられるものがある。不自然な空き地や新しい建物たちも、少しずつ、街に溶け込むようになってきた。「分かりますよ」と温度を伝えて、僕は僕の出来ることを続けていく。東の空へ、西の空へ。

特別な傷の痛みを分け合って「今日は…こんなに元気です」から


[短歌]終わるから始まることがあるという強がりだった青いドングリ

「終わりは始まり」と強がったところで、実はずっと終わることのない青い炎がある。未練だとか傷だとか、言葉はそれぞれ、誤魔化し方もそれぞれ。ドングリだったころのことを、簡単には忘れられなくて、ヒトという生き物。

終わるから始まることがあるという強がりだった青いドングリ


[短歌]憧れた未来と違う場所だから逢えたんだって咲いたんだって

いま、ここにいて、僕たちと呼び合えること。挫折や傷跡も内包して、並び合えるということ。すべては一点に向かい、一点のまま、次の未来を見つけにいこうとする。咲いて、だから、意味のないことなんてひとつもなかったのだと、きっと。

憧れた未来と違う場所だから逢えたんだって咲いたんだって


[短歌]また次に生まれ変わるとするとして隣にだれを期待しますか

夕焼けを眺めてお腹のふくれることはないけれど、涙の痕は、僕たちに帰ってもいい場所を与えてくれる。だからきっと意味のあるコト。「生まれ変わっても見つけるよ」とか「生まれ変わったら一緒になろう」とか。散ってしまう言葉の欠片たちも、未来、細胞のどこかには刻まれて、きっと意味を成す。空虚? それでも僕は、言葉を選って生きていくことを決めたんだ。

また次に生まれ変わるとするとして隣にだれを期待しますか