月別アーカイブ: 2016年9月

[短歌]画面には元気な風に映ってる無理するときの笑みを浮かべて

「大丈夫?」って聞けば「大丈夫」って返ってくる。大丈夫じゃなさそうだから案じるのに、ああ、逃げ道を塞いでしまうようなことをしてしまって僕は何を。無理をしていることを表情で察する。それくらいの近さなのに、近いなりの言葉を添えることができなくて何だか。

画面には元気な風に映ってる無理するときの笑みを浮かべて


[短歌]君の住む街にはどんな秋が来て僕を上書きしていきますか

擦り切れるくらいに繰り返し聴いたカセットテープのノイズは今でも覚えている。街が秋に満ちていくと、同じように、足りたり足りなかったりしたあの頃のことが思い出されて、僕はもう、どれくらい薄くなってしまったのだろうと瞼を閉じてしまうことがある。

君の住む街にはどんな秋が来て僕を上書きしていきますか


[短歌]そういえば死んだ親父は極楽にいるのでしょうかご機嫌ですか

9月16日は僕の誕生日で、14日は父の誕生日だ。だからなんとなく、昔ひろってきた犬の誕生日は9月の15日に設定した。おまけに敬老の日というイベントもあるものだから、このあたりはなんだかとても賑やかな時期だったような気がする。今はもう犬も父もいなくて、秋が吹くたび、そっちはどうだいと話しかけたくなってしまう。

そういえば死んだ親父は極楽にいるのでしょうかご機嫌ですか


[短歌]初恋の近くで追ったポケモンは卵を抱いた顔で微笑む

気が付けば昔に足を踏み入れていて、いくつかの形跡に、昔とは違う家族の変化に気付いてしまうことがある。どんな風に優しくいて、どんな風に笑っているのだろうなんて想像をしてしまえば苦しいに違いないから、何もなかったように足早に過ぎていく。

初恋の近くで追ったポケモンは卵を抱いた顔で微笑む


[短歌]ミサイルが遠くの国で降る青のクレヨンだけで描けない空

喜怒哀楽の一日を過ぎて、世界の何処かでは涙色をした空があるのだということを思う。血は血と涙を誘って、平穏の鐘はいつまでも響くことがない。「自分さえ良ければ」に、ときどき、残酷な自分の本性を見ているような気がしてしまう。

ミサイルが遠くの国で降る青のクレヨンだけで描けない空


[短歌]地を這ってゆく蝉たちは夢を見る君と交わしたナナネンミライ

夏のスピーカーたちは弱って、最期に、地を這うようにして命を終えていく。ひととき、ひとなつ。ちゃんと出逢えて、ちゃんと残せたんだろうか。ナナネンミライ、約束たちは、親の顔を知らないままにまた、大きな声で鳴けると良いね。

地を這ってゆく蝉たちは夢を見る君と交わしたナナネンミライ


[短歌]潮風に秋を足したら言葉など邪魔な気がした月が笑った

言葉という表現手段を自分の軸に据えていたいと思いながら向かう夏の終わりの夕暮れは、残酷なくらいに僕の言葉を黙らせる。いつまでも月を待とうとする二人の砂浜に、心地の良い風と音が繰り返されていた。

潮風に秋を足したら言葉など邪魔な気がした月が笑った


[短歌]一瞬を重ねていけば永遠になるはずだった背伸びの終わり

壊れやすいその一瞬を、重ねていけば強くなるのだと信じていたけれど、それはただ、無理を重ねていただけのことだった。背伸びは続かず、亀裂になって冷たさを纏う。地に足がつくころ、僕たちは冷静な判断をしてお互いを見送ることを決めた。

一瞬を重ねていけば永遠になるはずだった背伸びの終わり


[短歌]夕暮れが夜に向かってキスをするただそれに似た永い約束

昼は夕にバトンを渡して、夕は夜に添うようにして闇を連れてくる。不変の法則。つまり、そんな風に「変わらない」約束をしたつもりだった。脆くて壊れやすい橋を渡っていたのだと知ったのは、やがてまもなくのこと。宇宙の歴史に程遠い、一瞬の時間だった。

夕暮れが夜に向かってキスをするただそれに似た永い約束


[短歌]続編の便箋たちが行き交った靴箱はもう歌を忘れた

続編の便箋たちが行き交った靴箱はもう歌を忘れた #短歌 #短歌フォト #フォト短歌 #詩 #言葉

Nishibata Yasutakaさん(@bata)が投稿した写真 –

休み時間の靴箱に手紙を置いて「いま」を伝えあったようなことは、手のひら同士の繋がりあう今であればどんな内容になったのだろう。とびきりを伝えたくて、淡い色をした便箋に音符のような内容を詰め込み合った。靴箱はもう歌を忘れて、むかしのことを知る人はいない。

続編の便箋たちが行き交った靴箱はもう歌を忘れた


[短歌]友だちに戻れるようなわけもなく夏の得意なあなたでしたね

新雪に足跡をつけるのが大好きだ。白のキャンバス、僕は僕色を選んで染めるように描いていく。たとえて言うのなら、一度色の着いた雪はもう、二度とは白く戻らないということ。遠く遠く、薄く薄くなっていく。ただそれだけのリアルだということ。

友だちに戻れるようなわけもなく夏の得意なあなたでしたね


[短歌]音符なら言える癒えるとはしゃいでた不協和音に消えた約束

十分に伝わっていたのだろうけれど、伝わったからとて、叶うとは限らない。事実、想って作った僕の楽曲はもう、青の時代を象徴するただの一ページになってしまった。いつがピークで、どの瞬間から下り坂になったのだろうと、歓声の日々を思い出して不思議に思うことがある。

音符なら言える癒えるとはしゃいでた不協和音に消えた約束


[短歌]絵日記の色にならない声たちのまだ耳にいて雲の深さは

ふざけあった言葉や約束の語尾はちゃんと覚えていて、夏の訪れるたび、雲の深さから零れては耳たぶに触れていく。青春は深い青、白が引き立つ。真剣だったんだなぁと思う。青は青なりに、ずっとそんな風のままの青が続くのだろうと信じていた。

絵日記の色にならない声たちのまだ耳にいて雲の深さは


[短歌]告白の日のセミの子の子が鳴いているのでしょうか風の便箋

あの日を鳴いていたセミたちの子どもがいつか空を仰ぐ日も、きっと一緒にいるんだろうと思ってた。もう、あれから、子どもたちは次の世代たちにバトンを渡して夏の景色を担っている。君の行方を知らないまま、セミだけが響いている。

告白の日のセミの子の子が鳴いているのでしょうか風の便箋


[短歌]乾く日の約束をして頬をゆく風の鳴らした鈴は夏色

[短歌]乾く日の約束をして頬をゆく風の鳴らした鈴は夏色

塩屋の旧グッゲンハイム邸を取材で訪れたのは7月のこと。遠くには風鈴の音がして、梅は風を引き寄せて乾いていく。絵はがきの一部になっている感覚、昔と今が混じりあってとても優しい時間を過ごした。

乾く日の約束をして頬をゆく風の鳴らした鈴は夏色