[川柳]言葉だけ きれいな言葉だけでした

伝えてあげられたのは、言葉だけだった。パンにも、毛布にもならない、ただ、耳に触れただけの言葉のいくつかは、残響となって、埋まらない僕の箱のなかを永遠に往く。振り子のように僕を打つ響き、今なら、どんなことをしてあげられるのだろうと想う。

連作川柳 [1][2][3][4]
言葉だけ きれいな言葉だけでした
ふあうすと2016年12月号「明鏡府」掲載


[川柳]「おかげ」って言うたび僕が薄くなる

やがて雨の向こうに君は虹を見つけた。「おかげで」と笑って言うたび、微力にさえなれなかった自分が小さく、薄くなってゆく。強さの意味を考え、強さとはずっと遠いところで、僕はその声を聞く。

連作川柳 [1][2][3][4]
「おかげ」って言うたび僕が薄くなる
ふあうすと2016年12月号「明鏡府」掲載


[川柳]無力だと思う 微力はどこにある

(そんなわけはない)と強く思ったところで、僕には何もできない。チカラの源を探して、教科書を求める。それで何かを補えるわけでも、足してあげられるわけでもない。いくつかの選択肢を示して、それなりの役割を果たしたような顔をして佇むだけだ。この腕は空(くう)を掴むだけの無力。

連作川柳 [1][2][3][4]
無力だと思う 微力はどこにある
ふあうすと2016年12月号「明鏡府」掲載


[短歌]夕暮れに似た美しい名前にはどんな名字が出逢いましたか

名字をあててイニシャルの変化を笑い合ったのはむかし。美しい名前の響きに、いまはどんな幸せが飾られているのだろう。もちろん、知りたくなんてないのだけれど。

夕暮れに似た美しい名前にはどんな名字が出逢いましたか


[短歌]羽を縫う君は確かな将来をずっと信じていてくれたのに

優しすぎることに不安を覚え、疑いを向けては壊してしまう、ひとりの弱さと、ひとりの傷と。どんな風に未来を夢見てくれていたのだろうと、聞いてみたい気もして聞けなくて、微弱な心の振動を今日も、歌のなかに仕舞っては生きていこうとしている。

羽を縫う君は確かな将来をずっと信じていてくれたのに


[短歌]咲くために地面を選ぶこともあるいまが底ならあとは空だね

一面の落葉やドングリたちは、土の冷たさを覚えながら、いつかまた空に向かっていくエネルギーを蓄えようとしている。底のような場所にいて、視界を奪われたとしても、もう、それ以上の闇はないのだということを伝えるのは、僕の言葉か、僕の背中か。

咲くために地面を選ぶこともあるいまが底ならあとは空だね


[短歌]遠回りばかりをさせた灯火の歌に煌めく むかしむかしは

灯火のつもりでいたけれど、それは結局、遠回りを示しただけで、しかも、未来には届かないむなしい道のりだった。「ほんのわずかでも意味があったよね」とはおこがましく、かつての灯火は、歌のなかにかすかな意味を煌めかせようとする。

遠回りばかりをさせた灯火の歌に煌めく むかしむかしは


[短歌]木枯らしが来て右へ行くことにした君の時計は加速していく

ぼくは左へ、あなたは右へ。溝に吹く風は冷たくて、それぞれの背中は小さくなっていく。幸せを願っても、その幸せが加速していると、なんだか複雑な気持ちにもなってみたり。晴れ時々くもりのような時間に、自分の影を置いてほしいと思う僕の卑怯について。

木枯らしが来て右へ行くことにした君の時計は加速していく


[短歌]闇はまた光を連れてくるでしょうひとときいまは僕の番です

誰かの闇や傷を肴にすることが、その闇をもっと深いものにするのだと、どうして気が付かないのだろう。ナイフとなった言葉を封じ込めたい衝動にかられつつ、光のガイドになって支えることを選ぼうと思った。

闇はまた光を連れてくるでしょうひとときいまは僕の番です


[短歌]順番はやがて来るからうつむいてこぼしていいよほどけ靴ひも

いいと思う、うつむいて、休んで。大切なのは、いつ何処でこぼすのかということ。今がそうで、ここがそう。何度だって繰り返してやりたいと思った。今がそうで、ここがそうなんだ。

順番はやがて来るからうつむいてこぼしていいよほどけ靴ひも


[短歌]伝えたくなる空ですが伝えてはいけない距離で祈っています

見上げるのが好きだったことを覚えていて、思わず伝えたくなるような瞬間がある。許されることではなく、伝える術ももう、ないのだけれど。だからなんとなく、足を止めて、いまと、ずっと未来の温度のことを、ほんのすこしだけ、祈ってみたりする。

伝えたくなる空ですが伝えてはいけない距離で祈っています


[短歌]遠い日の遠い人にはもう何も求めはしない夜が長いね

秋は月に照らされて遠い日に出かける。色や音や香りは相当に美化されているのだろうが、ひととき、僕は僕の創り出した世界に身を置いて深呼吸をする。何も求めないから、自由を創造できる。

遠い日の遠い人にはもう何も求めはしない夜が長いね


[川柳]約束を含んだ語尾を待つ巨人

言葉のなかに約束があると安堵する。そうか、未来を描いてくれたのか。そうか、また会えるのか。自分に自信を持てない僕は、ひとの時間を借りようと自分から誘うことが苦手だ。大きく生きているように見せて、小心者。だから嬉しくなる語尾がある。

約束を含んだ語尾を待つ巨人
ふあうすと2016年11月号「明鏡府」掲載


[短歌]細胞の何処かの薄い足跡を波は優しく削るイジワル

細胞のひとつひとつには、螺旋の記憶があって、今の僕を構成している。鮮やかなままに言葉を紡ぎ出すこともあれば、褪せて沖の方に流れ出てしまったパーツもあって、時の流れは残酷だ。忘れられないから苦しいことも、忘れられるから生きていけることも。

細胞の何処かの薄い足跡を波は優しく削るイジワル


[川柳]奪われてなるものかってひがんでた

選ばれ続けることだけを考えていればいいのに、蹴落して自分の立場を守ろうとする。それでも果たされなければ、すねてひがんで「行かないよ」の言葉をかけてもらおうとする。弱くて弱くて弱くて、そんな小ささと対比してしまうくらいの大きさと眩しさ。

奪われてなるものかってひがんでた
ふあうすと2016年11月号「明鏡府」掲載


[短歌]街中で出会わぬように生きている近くて遠い旅をしている

昔を訪れる妄想ばかりしているくせに、街中を歩くときは視界をぼやかしてみる。止まったままの時間と流れていく時間とが交錯しあって、いまという瞬間。僕はずっとこの街で旅をしているのだと思う。それはとても、近くて遠い。

街中で出会わぬように生きている近くて遠い旅をしている


[短歌]光にも水にもなれませんでした答えはきっとあったのでしょう

できることはきっとあったのでしょうが、僕はそれを、いつか与えられるものだと信じていて、これっぽっちも見つけに行こうとはしませんでした。いまは遠いどこかで、どんな風にして花を咲かせているのでしょうか。弱かった日々を、それでも優しく、感謝しています。

光にも水にもなれませんでした答えはきっとあったのでしょう


[短歌]「実を結ぶまで待っていてくれ」なんて言えないままの下手な口笛

「いつか叶うもの」と、いつまでも走りだせないままでいたところで、それは単なる口ぐせになってしまう。曖昧な語尾、先送り。魔法が解けることを怖がったシンデレラは、こんな心境だったのだろうか。

「実を結ぶまで待っていてくれ」なんて言えないままの下手な口笛


[短歌]公式を探してばかりいたくせに雲には乗れなかった ひとひら

憧れに届きたくて、ずっと教則本を探していたような気がする。当たって砕ける勇気からは遠すぎて、結局いつも、秋の絵の具たちに支配されるころ、足らずばかりだった自分に疑問符をぶつけて過ごしてしまう。

公式を探してばかりいたくせに雲には乗れなかった ひとひら