[短歌]月光の姫よむかしを照らしては栞を抜いて続きを詠え

人生は選択の連続。右を選んだから今日の風は凪いでいるのかもしれないし、左を選んだから僕のこの先は嵐なのかもしれない。あの日あの時、左右を選んでお互いを見送りあった同士に続編があるとすれば、どんな風になるのだろうと考えたがるのが詩人という生き物。月はやっぱり空想を僕に促す。

月光の姫よむかしを照らしては栞を抜いて続きを詠え


[俳句]工場の機密を覗く春の月

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月に意思があるとすれば、春を騒がしくする人たちを眺めてどんなことを考えるのだろう、とか、夜の工場の機密を覗いてどんな未来を想像するのだろう、とか、そんなことを空想して過ごすのが好きだ。昔の人も見上げた月を、同じように見ている。この永遠に変わらない星との距離に、どれだけの想像が生まれてきたことか。

工場の機密を覗く春の月


[短歌]教科書は正しくないと知るでしょう花が咲いたら伝えあおうか

教科書の通りに雨は降らないし、晴れることもない。間違いないのは、咲いたり散ったり、これからはその繰り返しであるということだ。3月31日、卒業の風は未来へ伝わっていく。それぞれの花を誇る同士になってほしいなぁと思う。

教科書は正しくないと知るでしょう花が咲いたら伝えあおうか


[短歌]三年に一度くらいは涙してほしいと思う君に幸あれ

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思い出してほしくもあり、その日々があったから今なのだと思ってほしくもあり。どこでどうしているかは知らない、昔の記憶とそれからの行方。見えないところで笑っていてほしくて、見えないところで泣いていてほしい。なんとも小さな祈り方をする僕という人間は。

三年に一度くらいは涙してほしいと思う君に幸あれ


[短歌]風を見た同士は泣いていいんだよカメラロールに同じいちめん

「だいだい色」が果物のダイダイの実から転じたものであるならば、どうして「菜の花色」という概念は登場(一般化)しなかったのだろうと考えることがある。いちめんの菜の花。そういえば、かの有名なあの詩は、神戸で詠われたものであるということを知った。

風を見た同士は泣いていいんだよカメラロールに同じいちめん


[俳句]命日の風に抱かれし草若葉

三十歳の頃と比べれば、四十歳の自分もすこしは成長したのかもしれない。分からないくらいの、ほんの成長なのかもしれないけれど。誰に認められるよりも、いちばんに認めてほしい人がいる。いちばんに認めてほしい人は、もう、遠くへと行ってしまった。あれからの静寂。会いたいし、褒めてほしいし、頑張っているな、と言ってほしい。これからもずっと、遠いまんまなんだな。

命日の風に抱かれし草若葉


[短歌]輪郭を求めすぎたら疲れるねただ頷いてほしい夜とか

何も教えてほしくはなくて、ただ共感だけをしていてほしい。と、繰り返し心の中に念じながら、アドバイスに耳を傾けている。ため息をして最後に思う。頷いてくれること、その意味と温もりと。

輪郭を求めすぎたら疲れるねただ頷いてほしい夜とか


[短歌]夕暮れの景色になってしまおうか比べることはお休みにして

個の色は大切にしたいなぁと思う。ただ、色を出そうとして無理を強いるのは違うとも思う。ひとつひとつがみんなを構成している。そんな、大きなひとつ。それも生き方のひとつで、優しい景色なのではないだろうか。

夕暮れの景色になってしまおうか比べることはお休みにして


[短歌]影ばかり探そうとする僕でした雲を集めて雨を降らせて

前向きやポジティブという色から遠いところにいれば、それに気付いた優しい言葉がやってくるのではないかと考えていた時期もあった。最初はとても効果的だったその方法も、次第に、大切な人の未来を妨げる荷物へとなっていく。弱さはいっときのカンフル剤。永遠を繋ぐ手段にはなりえないことを知った。

影ばかり探そうとする僕でした雲を集めて雨を降らせて


[短歌]僕たちと呼びあえた日のそれからは右へ左へバカばかりして

回り道、遠回り、ルールから外れて、僕たちのルールを作りあうことが幸せだった。バカをしたなぁと思うし、バカをしたいなぁとも思う。「最近の若い人は」という言葉は羨んで使うものだということを、僕もこの年齢になって気付き始めたな。

僕たちと呼びあえた日のそれからは右へ左へバカばかりして


[短歌]運命と言えば重くて軽くなるひととき君と過ごした記憶

運命という言葉を、誰も、人生のどこかで使ったことがあるだろう。過ぎてそれは、笑い話になってしまうことがほとんどなのだけれど。記憶は綺麗なまま、眩しいままで、何十年経っても残るのだなぁと思う。

運命と言えば重くて軽くなるひととき君と過ごした記憶


[短歌]海になる覚悟を聞いてくれますか永い歴史を始めませんか

永遠の覚悟を文字にする、20歳のそれと40歳のそれとでは、いろんなことが見えてきた分、いろんな意味が伴って異なる。「守りたい」とか「強くありたい」とか。青い想いを言葉にして動こうとするのは、昔も今も変わらないけれど。

海になる覚悟を聞いてくれますか永い歴史を始めませんか


[俳句]踏み跡をたどりはしない雪の果て

「雪の果」という季語には別に「名残の雪、別れ雪、忘れ雪」などの呼び方もあるらしい。雪の終わりは春に繋がれていく。春に終わった色々を思い出さないことはないけれど、もう、辿ってはいけないのだと思う、その踏み跡と文の後。

踏み跡をたどりはしない雪の果て


[短歌]曲げないと生きていけないことがある帰ってきたら泣いていいから

芯を曲げることはとても辛いだろうけれど、「柔軟」や「臨機応変」という言葉に甘えてみてもいい。それは生きていくための手段。それは笑っていくための方法。大丈夫、泣いてもいい、昔の顔のままで、大丈夫。

曲げないと生きていけないことがある帰ってきたら泣いていいから


[短歌]夕焼けが帰りなさいと言うようなとても優しいお別れでした

その後を願い合って背中を向けた手のひら。「あれから、幾つかの涙をこぼして、そうして今日はこんなに元気にしています」と、いつか伝えることはあるんだろうか、なんて、西の空に感化されるのは、僕のなかの永遠の青さ。

夕焼けが帰りなさいと言うようなとても優しいお別れでした


[俳句]優劣は知らず月夜の梅の花

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争いを忘れた花の優雅に、僕たちはしばらくを見惚れる。競うという言葉の意味も知らず梅は月を見上げて。美しさのそばで、僕たちはどうして優劣を決めたがるのかを考える。

優劣は知らず月夜の梅の花


[短歌]「あれから」の文字が重なる一日を永遠として春よ急ぐな

3.11の涙を急いで乾かす必要はないと思ってる、3.11に限ったことではないけれど。季節の巡るたび甦ってくる死別や離別の痛み。あの日が冬だったのなら、置き去りにしてしまうような春は、まだ、来なくていい。

「あれから」の文字が重なる一日を永遠として春よ急ぐな


[短歌]在るようで無くて近くて遠いものたとえば羽根の浮かぶ夕暮れ

夜に消えてしまうまでのほんの一瞬に奇跡と出逢った。空を見上げたか、カメラを持っていたか。タイミングは空に与えられても、そのための意識や準備をしておくのは自分の心構えだ。60秒の深呼吸。無性にありがとうが言いたくなる。

在るようで無くて近くて遠いものたとえば羽根の浮かぶ夕暮れ


[短歌]壊れては涙を添えてばかりいる掴めなかった羽根の行方に

ぐにゃりとしたり、ぐしゃりとしたり、僕の来たこれまでには、いくつもの挫折があって、永遠の冷たい風を送り続けてくる。だから詩を書けるのかもしれないし、だから詩に逃げるのかもしれない。羽根をこぼしてしまったことを、否定はしない。その事実が、いまの僕を形成している。

壊れては涙を添えてばかりいる掴めなかった羽根の行方に


[短歌]お眼鏡に適わなかった原石が今でも雨を見上げてしまう

あの日あの時あの瞬間、どうしていれば運命を変えられたのだろうと思うことがある。それはもう、過去の一点であって、そんなことを考えてばかりいるから、原石はいつまでも磨かれないのかもしれない。「石ころ」とは書かない、安い安いプライド。

お眼鏡に適わなかった原石が今でも雨を見上げてしまう